子どもの養育費

離婚しても子どもの養育は義務。養育費について

離婚する夫婦の間に未成年の子どもがいる場合、その子どもの親権・監護権を夫か妻のどちらかに決める必要があります。
子どもを監護しないことになっても、子どもの親であることには変わりありません。親としての責任を果たすために、「養育費」をきちんと支払う義務があります。

■養育費とは
子どもを監護する親(監護親)は、子どもを監護していない親(非監護親)に対して、子どもを育てていくための養育に要する費用を請求することができます。この費用が「養育費」です。
養育費の支払義務は、子どもが最低限の生活ができるための「生活扶助義務」ではなく、それ以上の内容を含む「生活保持義務」といわれています。生活保持義務とは、自分の生活を保持するのと同じ程度の生活を、扶養を受ける者にも保持させる義務のことです。
つまり養育費とは、非監護親が暮らしている水準と同様の生活水準を保てるように支払っていくべきものです。非監護親が「生活が苦しいから払えない」という理由で支払義務を免れるものではなく、自分の生活水準を落としてでも払わなければならないお金です。このように、「養育費」は、非監護親が「余裕がある場合に支払えばよい」というものではありません。
養育費の金額については、離婚時に取り決めをしておくのが一般的ですが、離婚を急ぐあまり、養育費について取り決めなかったという場合でも、相手方に対して、養育費の支払請求をすることができます。養育費の請求権は子どもの権利でもあります。仮に、親権を持つ親が「養育費はいらない」と請求権を放棄したとしても、子ども自身が請求することができる可能性があります。また、後で事情の変更があった場合には増額を請求できるケースもあります。
■養育費の金額の決め方
養育費の金額を決める手続は、基本的に婚姻費用を決める場合と同じです。
まずは、夫婦(または代理人)間で話し合いをし、離婚協議で決まらなければ離婚調停において金額や支払方法を話し合うことになります。もし、調停で話し合いをしても決着がつかないときは、離婚審判ないし離婚訴訟の中で、裁判官に決めてもらうことになります。金額については、「養育費算定表」を用いて金額を算出します。
[養育費を決める具体的な計算方法]
①義務者(支払う側)、権利者(もらう側)の基礎収入を認定する。
※総収入から、所得税などの公租公課、職業日、住居費、医療費などの特別経費を差し引いた金額
②義務者、権利者、子のそれぞれの最低生活を認定する。
※例:生活保護の基準など
③義務者と権利者の負担能力の有無を確認する。
※義務者の基礎収入が②で算出された最低生活費を下回っていれば、負担能力がないとみなされる
④子どもに充てられるべき生活費を認定する。
※子どもと義務者が同居していたと仮定し、義務者の基礎収入を、義務者と子どもの基礎収入の割合で案分する。
⑤義務者の負担を認定する。
※子どもの生活費を、義務者と権利者の双方の基礎収入で案分する
この計算方法は、長らく理論的で妥当な方法とされてきましたが、金額を認定するまでに膨大な資料と時間が必要となり、養育費の算定に時間がかかるという問題点があります。
この改善策として統計数値を利用して一定の計算式を作り、これに基づいて権利者・義務者の収入、子の人数、年齢に応じて、標準的な婚姻費用や養育費を算出できるようにしました。それが、「養育費算定表」です。

■養育費算定表の金額以上はもらえない?

話し合いで合意ができれば、養育費算定表の金額以上をもらえることができますが、特別な事情があることを裁判官へ説得的に主張することが必要です。
特別な事情としてあげられることに子どもが私立学校に通うケースがあります。養育費算定表では、公立中学校・公立高等学校の教育費で計算しているため、私立学校の学費などの費用は考慮されていません。
非監護者(義務者)が私立学校への進学を承諾している等、非監護者(義務者)の収入や資産・学歴からみて非監護者(義務者)に私立学校の学費を負担させるのが妥当だと考えられる事情を説明し、養育費の加算を主張することになります。
ほかにも、算定表には考慮に入れられていないことは多岐にわたります。それぞれのケースによって異なるため、専門的な判断が必要となります。法律の専門家である弁護士への相談をおすすめします。

[養育費をどのくらいもらっているの?]

※司法統計平成30年のデータに基づきます。
※また、上記のデータは、「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件のうち母を監護者と定めた場合であり、養育費が月払される場合のデータです。
※%=小数点第二位以下四捨五入。
※1 子どもの数は、母が監護権者となった未成年の子どもの数を指します。

■養育費は、いつからいつまでもらえる?
養育費は、請求した時点以降からもらえることになりますが、過去に遡って請求することはできません。養育費を決めずに離婚をした場合、数カ月間養育費をもらえなくなる場合もあります。離婚の際は、養育費について忘れずに協議しておきましょう。
養育費が請求できるのは、原則として子が20歳になるまでです。2022年4月1日以降、成人年齢が18歳に引き下げられますが、子どもの健全な育成の観点から養育費は20歳までもらえます。両親の学歴や、本人が大学進学をする必然性が高いなどの理由から、例外的に、大学を卒業する22歳まで養育費が支払われる場合もあります。
養育費は、通常、月々の分割払いです。相手が払い続けてくれるかどうか不安もありますが、相手の合意がない限り、一括での支払を強制することはできません。この場合、一括でもらうことで発生する利息分が差し引かれたり、余分な税金が発生する場合もあるので、慎重に検討する必要があります。

■養育費の増額や減額について
一度決めた養育費も、子どもが大病を患って多額の医療費がかかるといった事情や進学に特別の費用が必要になった場合など、特別な事情がある場合は増額の主張を検討することができます。
また逆に、養育費の減額を請求される場合もあります。一例として、
①非監護者(義務者)が再婚して子どもが産まれた
②監護者(権利者)が再婚した
等、義務者の扶養家族が増えたり、権利者側の収入が増えたなどの事情がある場合です。しかし、これらのような事情があっても、養育費の増額や減額が自動的に行われるわけではありません。

■もしも養育費が支払われなくなったら
離婚調停や離婚審判、裁判上の和解や判決において養育費の支払を定めているにもかかわらず、養育費が支払われない場合、家庭裁判所から支払をするよう相手方に勧告(履行勧告)や支払命令(履行命令)をだしてもらうことができます。
しかし、履行勧告は強制力がありません。履行命令についても制裁が軽いので実行力に乏しいのが実情です。離婚調停や離婚審判等で取り決めた場合や、養育費について公正証書を取り交わしている場合には、強制執行をすることができます。
強制執行の対象としては、給与を差し押さえるのが一般的です。通常は給与の4分の1までしか差し押さえることができませんが、養育費の場合には、子どもの生活にかかわる大切な権利のため、2分の1までの差し押さえが認められています。
支払期限が来ていない、未来の養育費についてはあらかじめ強制執行の申立をすることはできませんが、養育費については支払が滞っていれば、期限前でも申立をすることができます。
なお、相手方が退職してしまった場合に養育費の回収が困難となります。給与の差し押えをすべきかどうか、そのほかにどのような財産を対象としていくのか等、強制執行の方法については慎重に検討する必要があります。

養育費の増額や減額は、当事者同士で合意し、まとまらなければ裁判所に対して調停や審判を申し立てる必要があります。また、養育費が支払われなくなった場合なども法律で様々な手続きを行います。よりよいかい解決に向けて弁護士に相談することをおすすめします。

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