退職金と年金分割

熟年離婚者は必見。退職金と年金分割

退職金と年金分割は、将来の生活に大きくかかわります。特に、熟年離婚の場合には、今後の生活の糧となることが多いので、知識をしっかりと学びましょう。

■退職金の考え方と財産分与
退職金は給与の後払いと考えられるため、退職金も給与と同様に財産分与の対象になります。
しかし、一般的に退職金が実際に支払われるのは退職のときであり、会社の経営状態や退職理由によっては支払われない可能性もあるので、確実に支払われる保証はありません。
退職金を財産分与の対象とするためには、退職金の支給が確実であると見込まれることが必要になります。また、支給が見込まれる場合であっても、その全額が対象になるわけではなく、婚姻期間に応じた部分のみが対象となると考えられています。

[退職金が財産分与の対象となる場合]
(1)退職金がすでに支払われている場合
退職金がすでに支払われている場合には、
①実質的な婚姻期間(同居期間)が何年であったのか②退職金の支給にかかる勤務年数がどれだけであったのかによって「配偶者は、退職金の形成にどれだけ貢献をしているのか(寄与期間割合)」が変わります。この割合を基礎にして、金額を計算することになります。
また、気をつけなければならないのは、退職金相当額が残っているか否かという点です。すでに退職金を受け取りながら、離婚時においてすでに退職金がなくなっているような場合には、財産分与の対象となる財産がすでに存在しないので、財産分与の対象にならないとされる可能性があります。

(2)退職金がまだ支払われていない場合
将来的に退職金が支給されることが確実に見込まれる場合は、財産分与の対象になると考えられます。これは、会社の就業規則(退職金支給規定)や支給実態等も考慮することになります。
しかし、将来受け取るかどうかわからない退職金の分割を今の段階で認めてしまうことになるため、裁判所でも退職金の分割を認めないこともあります。

[退職金を算定する方法]
分割対象となる退職金の計算方法については、いくつか考え方が示されています。
1つは、「今退職したら退職金はいくらになるか」を計算の基礎にするということです。財産分与の基準時点における自主退職の場合の退職金のうち、婚姻期間相当分を財産分与の対象とすることになります。
ほかには、将来的に受給予定の退職金総額の婚姻期間相当分から、「将来受け取るもの」を今受け取ることによって生じる利息分を差し引くという方法もあります。
このように、退職金を財産分与の対象にできるのか、また、その計算方法はどのようにするのかという問題は、専門的で複雑な判断となります。どのように主張・立証をして、どのような計算方法をとるべきかは、それぞれの事情によって異なりますので、弁護士に相談することをおすすめします。

■年金分割制度
離婚後に片方配偶者の年金保険料の納付実績の一部を分割し、それをもう片方の配偶者が受け取るという制度です。
この制度は「厚生年金保険および共済年金の部分」に限り、「婚姻期間中の保険料納付実績」を分割するもので、国民の基礎年金である「国民年金」に相当する部分や、「厚生年金基金・国民年金基金」等に相当する部分は分割の対象にはなりませんのでご注意ください。また、「婚姻前の期間」の分は反映されません。さらに、将来受け取る予定の年金金額の2分の1をもらえる制度ではなく、保険料の納付実績の分割を受けるという制度ですので、注意が必要です。
[不公平をなくす]
年金分割制度は、特に熟年離婚の場合の夫婦間の公平を実現するために導入された制度です。例えば夫が会社員として働き、妻が主婦として家事を行っていた場合、年金保険料の支払には夫婦が貢献したのにもかかわらず、夫のみ厚生年金を全額受け取ることになます。この不公平をなくすために制度が導入されました。
[注意点]
年金分割制度を利用するメリットがあるのは、婚姻期間中に相手方が厚生年金・共済年金を自分より多く支払っていた場合のみです。国民年金は分割されませんので、夫が自営業者や自由業、農業従事者等の場合には、年金分割の制度を利用することができません。また自分のほうが年金の受給額が多いのであれば、逆に年金分割を請求される立場になります。
また、年金受給を受ける本人に年金受給資格がない場合には、せっかく年金分割をしても年金が受け取れないことになりますので、注意してください。

[年金分割の種類]
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があります。
⑴合意分割
離婚日:平成19年4月1日以後
夫婦間の合意:按分割合(分割することおよび分割割合)について必要。合意ができないときは裁判所に按分割合を決定してもらう。
分割対象期間:婚姻期間(平成19年4月1日以前も含む)
分割割合:1/2が上限
請求期間:原則として、離婚日の翌日から2年以内
対象者:第3号被保険者だけでなく、第1号被保険者、第2号被保険者でも可能

(2)3号分割
離婚日:平成20年4月1日以後
夫婦間の合意:不要
分割対象期間:平成20年4月1日以降の婚姻期間のうち、第3号被保険者であった期間
分割割合:1/2
請求期間:原則として、離婚日の翌日から2年以内
対象者:平成20年4月1日以降の婚姻期間のうち、第3号被保険者であった期間がある方のみ

厚生年金基金 職域相当部分 3階部分
国民年金基金 付加年金 厚生年金保険 共済年金 2階部分
国民年金(基礎年金) 1階部分
自営業者等 民間の会社員・公務員等の被扶養配偶者 民間の会社員 公務員等
第一号被保険者 第三号被保険者 第二号被保険者

■年金分割の方法と手続
[合意分割で夫婦間の合意が成立した場合]
必要書類を請求者の現住所を管轄する日本年金機構(年金事務所)に標準報酬改定請求書を提出して請求します。
(1)必要書類
①年金手帳②離婚届③戸籍謄本④合意分割の場合は按分割合を定めた公正証書や調停調書、確定判決等
(3号分割の場合は2分の1と決まっているため、按分割合を定めた書類の提出は必要ありません)。

⑵提出方法
①本人またはその代理人が、年金分割請求時に合意した内容を記載した書類を年金事務所の窓口に持参する。
②合意内容等を明らかにした公正証書の謄本抄録謄や抄本、公証人の認証を受けた私署証書を添付する。
上記①②のどちらかの方法で手続きをします。

⑶提出期限
請求できる期限は、離婚が成立した日の翌日から2年間です。この期間を経過したときには、原則として分割の請求はできませんので注意が必要です。

[夫婦間の協議によって合意ができない場合]

家庭裁判所における調停や審判・離婚訴訟における手続によって決定することになります。
⑴調停による場合
離婚調停に付随して、按分割合を定めることができます。離婚成立後も、按分割合を定める調停の申立をすることができます。

⑵審判による場合
年金分割についての合意ができていない場合に申し立てることができます。按分割合を定める調停を申し立てたけれども、不成立で終了した場合には、審判手続に移行します。

⑶離婚訴訟における附帯処分の手続
離婚訴訟において、「附帯処分」というかたちで付随して年金分割の分割割合を決定するよう請求することができます。

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