セックスレス夫婦の離婚と子どもへの影響:法的・心理的に知っておくべきポイント
セックスレスは現代日本の夫婦問題として非常に広がっている課題です。夫婦の親密さが失われることで関係性に亀裂が生じ、最終的には離婚を検討するケースも少なくありません。特に子どもがいる家庭では、離婚が子どもに与える影響についても慎重に考慮する必要があります。この記事では、セックスレス夫婦の離婚問題と、それが子どもに与える法的・心理的影響について、専門的な観点から解説します。
目次
セックスレスとは:定義と現状
セックスレスの定義と日本の現状
「セックスレス」とは一般的に、夫婦間で一定期間(通常1ヶ月以上)性的関係がない状態を指します。日本性科学会の定義では「性交渉が月に1回未満で、かつそれが6ヶ月以上継続している状態」とされています。日本の夫婦におけるセックスレスの割合は年々増加傾向にあり、特に結婚期間が長くなるほど、またライフステージの変化(出産後、子育て期、更年期など)でセックスレスに陥りやすいとされています。
セックスレスと「婚姻義務の不履行」
法的な観点では、セックスレスは「同居・協力・扶助義務」の一部として考えられることがあります。民法752条では夫婦の協力義務が定められており、その中に性的関係も含まれるとする見解があります。しかし、実際の裁判例では、セックスレスのみが直接的な離婚原因として認められるケースはほとんどありません。むしろ、セックスがあると婚姻関係が破綻していなかったことを示す事情として考慮され、セックスレスであったことは、夫婦関係が破綻していたことを示す一要素として考慮されることが一般的です。
セックスレスを理由とした離婚の法的側面
離婚の種類と手続き
日本の法律では、離婚には以下の種類があります:
- 協議離婚:夫婦の合意による離婚(民法763条)
- 調停離婚:家庭裁判所の調停による離婚
- 審判離婚:家庭裁判所の審判による離婚
- 裁判離婚:裁判所の判決による離婚(民法770条)
セックスレスを理由に離婚を考える場合、まずは話し合いによる協議離婚を目指すことが一般的です。話し合いがまとまらない場合には調停離婚、それでも解決しない場合には裁判離婚という流れになります。
セックスレスは法的に離婚理由になるか
裁判で離婚が認められるためには、民法770条に定められた離婚事由のいずれかに該当する必要があります。セックスレス自体は明確な離婚事由として列挙されていませんが、以下のような事由に関連付けられることがあります:
- 民法770条1項5号(改正後は4号)「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」:セックスレスが長期間継続し、その原因が一方の配偶者にあり、かつ回復の見込みがない場合には、この条項に該当する可能性があります。
裁判所は、セックスレスの期間、原因、夫婦関係の状況、子どもの有無など総合的に判断します。重要なのは全体として「婚姻関係が破綻しているといえるか」という点であり、セックスレスはその判断材料の一つとなります。
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裁判例にみるセックスレスと離婚
過去の裁判例では、セックスレスを主な理由とした離婚請求が認められるケースもあれば、認められないケースもあります。
- 認められた例:性交渉が可能である前提若しくは片方から不能であることが告げられない状態で婚姻したにも関わらず、婚姻後、長期にわたりセックスレスの状態が継続したことが、夫婦関係が完全に破綻していると判断された大きな要因となったケース
- 認められなかった例:セックスレスの期間が比較的短い、または他の婚姻関係(子育てや家計の協力など)が維持されているケース
裁判所は、セックスレスの「原因」も重視します。例えば、一方の配偶者の健康上の理由によるセックスレスの場合と、単に性的関係を拒否している場合とでは判断が異なることがあります。
子どもへの影響:法的観点から
親権と監護権の決定
離婚する際に子どもがいる場合、親権者を決める必要があります(民法819条)。親権には、子どもの財産管理や法律行為の代理などの「法的な権限」が含まれます。一方、監護権は子どもと一緒に生活し、実際に育てる権利と義務を指します。
セックスレスを理由とした離婚であっても、親権・監護権の決定においては「子どもの最善の利益」が最優先されます。具体的には、以下のような要素が考慮されます:
- 子どもの年齢と発達段階
- これまでの養育状況
- 子どもとの心理的絆
- 養育能力(経済力、時間的余裕、住環境など)
- 子どもの意思(年齢によります)
面会交流と養育費
非監護親(子どもと一緒に暮らさない親)には、定期的に子どもと会って交流する「面会交流権」があります。面会交流は子どもの健全な発達にとって重要であり、特別な事情がない限り認められるべきものとされています。
また、親権の有無にかかわらず、両親は子どもが成人するまで養育費を負担する義務があります。養育費の金額は、双方の収入、子どもの年齢、人数などを考慮して決定されます。
子どもの戸籍と氏の問題
離婚に伴い、子どもの戸籍や氏(姓)が変わる可能性があります。子どもにとって姓の変更は大きな心理的負担となることもあります。特に学齢期の子どもの場合、学校での対応も考慮する必要があるでしょう。
子どもへの影響:心理的観点から
年齢別にみる離婚の影響
子どもの年齢によって、離婚の受け止め方や影響は大きく異なります:
乳幼児期(0~5歳)
- 直接的な理解は難しいが、親の不在や家庭環境の変化に敏感に反応
- 愛着形成への影響が大きい
- 分離不安や退行現象(おもらし、指しゃぶりなど)が見られることがある
学童期(6~12歳)
- 離婚の意味を理解し始める
- 自分に責任があると考えてしまう「自責の念」が生じやすい
- 学業への影響、友人関係の変化などが見られることがある
- 片親への忠誠心の葛藤を抱くことも
思春期(13~18歳)
- 親の離婚を理性的に理解できる一方で感情的な反応も強い
- 反抗や非行といった形で表れることがある
- 将来の結婚観や家族観に影響を与えることも
子どもの心理的反応と対処法
離婚に際して子どもが示す一般的な心理的反応には以下のようなものがあります:
- 不安と恐れ:「これからどうなるの?」という不安
- 悲しみと喪失感:家族の形が変わることへの悲しみ
- 怒りと敵意:親への怒りや周囲への敵意
- 自責の念:「自分のせいで離婚したのでは」という罪悪感
- 忠誠心の葛藤:両親の間で板挟みになる心理的葛藤
これらの反応に対しては、以下のような対処が有効です:
- 子どもの年齢に合わせた説明:嘘をつかず、かつ不必要に詳細な説明も避ける
- 両親が協力して一貫したメッセージを伝える:離婚は大人の問題であり、子どもは何も悪くないことを強調
- 子どもの感情表現を認める:怒りや悲しみの表現を受け止める
- 生活の安定性を保つ:可能な限り生活リズムや学校などの環境を維持する
- 必要に応じて専門家のサポートを受ける:カウンセリングなど
子どもの心理的回復を助けるために
離婚後も子どもの心理的健全性を保つためには、以下のような点に注意することが重要です:
- 両親間の敵対関係を子どもの前で表さない:子どもの前で元配偶者の悪口を言わない
- 子どもを両親の仲介者にしない:「お父さん(お母さん)に伝えておいて」などと頼まない
- 安定した生活環境を提供する:経済的・情緒的な安定を心がける
- 面会交流を支援する:特別な事情がない限り、非監護親との関係維持を支援する
- 子どもの気持ちを優先する:大人の都合で子どもを振り回さない
セックスレス夫婦が離婚を考える前にできること
夫婦関係の修復の可能性
セックスレスが離婚の理由になる前に、夫婦関係の修復を試みることも重要です:
- オープンなコミュニケーション:互いの気持ちや考えを率直に話し合う
- 原因の特定と対処:セックスレスの原因(ストレス、健康問題、価値観の違いなど)を特定し対処する
- 専門家のサポートを受ける:夫婦カウンセリングや性専門医などに相談する
- スキンシップの回復:性行為以外の身体的接触から始める
- 関係性の再構築:共通の趣味や活動を通じて絆を深める
カウンセリングと専門家の支援
夫婦関係の修復が難しい場合や、既に離婚を考えている場合でも、以下のような専門家のサポートを受けることで、より良い決断や対処ができる可能性があります:
- 夫婦カウンセラー:関係性の問題解決を支援
- 家族療法士:家族全体のシステムに着目した支援
- 弁護士:法的な側面からのアドバイス
- 心理カウンセラー(子ども向け):子どもの心理的サポート
離婚を選択する場合の子どもへの配慮
子どもに与える心理的影響を最小限にするために
離婚を決断した場合でも、子どもへの心理的影響を最小限にするための配慮が必要です:
- 子どもへの伝え方:両親揃って、子どもの年齢に合わせた言葉で説明する
- 子どもの質問に正直に答える:ただし不必要な詳細は避ける
- 生活の変化を具体的に説明する:「これからはママの家とパパの家を行き来することになるよ」など
- 子どもの気持ちを尊重する:悲しみや怒りの表現を認め、共感する
- 「子どもの最善の利益」を最優先する:親権や面会交流の取り決めにおいても
養育プランの作成
円滑な共同養育のためには、具体的な養育プランを作成することが有効です:
- 居住スケジュール:子どもがどの親とどのような頻度で過ごすか
- 行事や学校関連の決定:誰がどのように関わるか
- 養育費や教育費の分担:具体的な金額と支払い方法
- 医療や健康に関する決定:誰がどのように判断するか
- 連絡方法と頻度:両親間の情報共有をどうするか
このような養育プランは、離婚調停の中で「調停条項」として定めることも可能です。
法的支援を受けるタイミングと方法
弁護士への相談のタイミング
以下のような場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします:
- 話し合いをすることが難しいと感じている場合
- 自分や子どもの権利や生活をしっかり守れるのか不安な場合
- 離婚に向けてどう動いたら良いのか不安な場合
- セックスレスが離婚理由になるか判断が難しい場合
- 親権や養育費について合意が難しい場合
- DV(家庭内暴力)や虐待の問題がある場合
- 財産分与や慰謝料について争いがある場合
- 面会交流が円滑に行われない可能性がある場合
法的支援の種類と活用方法
- 法律相談:各地の弁護士会や自治体が実施する無料・低額相談
- 弁護士への依頼:交渉や調停、裁判の代理人として
- 家庭裁判所の調停:親権や養育費などの取り決め
まとめ:子どもの幸せを中心に考える離婚
セックスレスが原因で離婚を考える場合も、最終的には「子どもの最善の利益」を中心に考えることが重要です。離婚そのものよりも、離婚前後の親の対応や子どもを取り巻く環境が、子どもの心理的健全性に大きく影響します。
夫婦関係の修復が難しく離婚を選択する場合でも、両親が協力して子どもをサポートする「共同養育(コ・ペアレンティング)」の姿勢を持つことで、子どもは健全に成長することができます。
離婚は家族の「終わり」ではなく、新しい家族の形への「変化」です。その変化の中で子どもが安心して成長できるよう、法的・心理的な観点から十分な準備と配慮を行うことが大切です。
セックスレスに悩む夫婦、または既に離婚を考えている方々が、この記事を参考に、自分自身と子どもにとって最良の選択ができることを願っています。どのような選択をするにしても、専門家のサポートを受けながら、慎重に判断することをお勧めします。
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