産後クライシス:夫婦関係の危機を乗り越えるために
出産後に夫への愛情が急激に冷め、夫婦関係が悪化してしまう「産後クライシス」は珍しいことではありません。クライシスは英語で「危機」や「重大局面」を意味しますから、まさに文字通り、産後に迎える夫婦関係の危機を表しています。私たち弁護士の元にも、産後クライシスが原因で離婚を検討されている方からの相談が数多く寄せられています。
本来喜ばしいことであるはずの出産後に、産後クライシスという危機的状況になるのはなぜでしょうか。この状況は決して特別なものではなく、多くの夫婦が経験する可能性のある課題です。出産という大きなライフイベントに伴う心身の変化や、生活環境の急激な変化が、夫婦関係に大きな影響を及ぼすことは自然なことといえます。
この記事では、そんな産後クライシスの特徴や原因、産後クライシスの乗り越え方をご説明します。また、法律の専門家として、深刻化した場合の対応策についても触れていきたいと思います。
産後クライシスのチェックシート
まずは下のチェックシートで産後クライシスの簡単なチェックをしてみましょう。これらの項目は、当事務所に相談に来られた方々の経験から、特に重要だと考えられる点を抽出したものです。
・夫婦間の会話や一緒にいる時間が減った
・他人の夫と比較して羨ましいと思うようになった
・夫への愛情が減ったと感じる
・育児や家事に常に追われていると感じる
・育児の分担についてケンカが増えた
・産後も、産前と何も変わりなく生活する夫にイライラする
・夫婦2人で過ごす時間が大きく減り、会話も減っている
・夫婦生活がない
・夫を頼る気になれない
・何気ない夫の行動や言動にすぐイライラする
・夫が家事や育児を手伝ってくれてもなぜか腹が立つ
これらの項目にチェックが多ければ多いほど、夫に対し不満がたまっている状況といえます。ただし、このような状態は決して異常なことではなく、多くの方が経験する過程の一つだと考えることが重要です。
産後クライシスの特徴とは
妻は出産で心身ともに疲弊したところから育児がスタートし、一歩間違えれば子どもが死んでしまうという状況で、人によっては常に精神的な緊張を強いられます。この状況は、多くの方が経験する極めて自然な反応であり、当事務所での相談事例からも、決して珍しいものではないことがわかっています。
一方、夫は子どもが生まれたものの職場に通い続け、日常生活に大きな変化が生じていないようなケースがあります。このようなケースでは、子育ても家事も基本的に妻に任せっきりです。当事務所での相談では、この生活パターンの違いが、後の深刻な夫婦間の軋轢につながるケースを多く見てきました。
自発的に育児をしてくれない夫に、大切な子どもを任せるのは妻としては不安になります。特に新生児期は、母親の保護本能が強く働く時期でもあり、この不安感は極めて自然なものといえます。
その結果、夫からすると子どもはかわいいけど、妻がピリピリしていて接しづらく、妻としてはそんな夫に対し不信感やストレスを募らせる状況になってしまいます。この悪循環は、適切な対処をしないと徐々に深刻化していく傾向にあります。
この状況が続き、お互いの愛情が冷めてしまうことで、離婚も検討するほど産後に夫婦仲が急激に悪化していくのです。
産後クライシスが起きてしまう原因
以下のような数々の要素が重なり、結果的に、離婚にまで陥ってしまうような産後クライシスが起きてしまいます。当事務所での相談経験から、これらの要因は単独ではなく、複数が重なって問題が深刻化していくことが多いと考えられます。
・出産によるホルモンの変化
女性は妊娠から出産の過程でホルモンバランスに大きな変化があります。これは単なる気分の問題ではなく、身体的な変化に基づく重要な要因です。バランスが崩れてしまうと精神的にも不安定になってしまい、イライラしたり攻撃的になることが多くなります。
・コミュニケーションの不足
独身時代は、たくさんコミュニケーションが取れていた夫婦でも、子どもが生まれたことでコミュニケーションが減ってしまいます。コミュニケーションが不足すると、夫婦がすれ違うようになり、妻も夫も悩みや不安をどんどん溜め込むようになります。
・子どもが第一の生活になる
子どもが生まれれば、女性は子供が1番になり、一生懸命子育てをします。そして、子育ての大変さからそのイライラを夫にぶつけてしまう事が多いです。この変化は、特に第一子出産後に顕著に表れる傾向があります。
産後クライシスの対処法
夫を頼る
子どもが生まれると、「赤ちゃんのことは全部自分でやろう」と頑張りすぎてしまう人もいます。
頑張りすぎず、夫を頼ることも産後クライシスを乗り越え良好な夫婦関係を築くために必要といえるでしょう。
夫が協力してくれた時は、どんな小さなことでも褒めてあげてください。
困っているときはきちんと言葉で伝える
男性は言われないと分からない場合がたくさんあります。なんでわかってくれないのだろうと思うよりも、相手にはっきり伝えてしまった方が良いでしょう。その方が精神的にもスッキリするでしょうし、夫も自分のすべきことがわかるため言葉で伝えたほうが良好な関係を築けるでしょう。お願いをするときは、いくらイライラしていても、きつい言い方にならないように気をつけてくださいね。
他人と比べない
自分の夫と周りにいる夫を比べないほうが良いですし、比べだしたらきりがありません。家庭にはそれぞれのスタイルがありますし、夫にも色々なタイプがいます。周りと比較してもイライラが増すだけですので、気にしないようにしましょう。
子どもを預ける
言葉の喋れない赤ちゃんと24時間ずっと一緒にいることは母親の大きな負担になります。たまには子どもを誰かに預けて好きなことをしてみると、かなり気分が楽になりますし、「辛くなったらこうすればいいんだ」とある意味逃げ道が見つかります。両親にお願いしてもいいですし、夫に任せて友達に会ってみたり、子どもがある程度成長したら保育園に預けてパートを始めてみるのも良いかもしれません。頭の中が「子ども子ども」となりすぎていると、こもった部屋のホコリのようにストレスが溜まっていきます。
一人で悩まずは相談
産後クライシスになってしまいそうなとき、どうしても苦しみや辛さを拭えないときは、誰かに相談してみましょう。
仲の良い友人やお母さんなど子育てを経験している方であればきっと気持ちをわかってくれるはずです。
相談する人がいない場合は、自治体に設置してある相談窓口を利用することをおすすめします。